小児歯科

歯科臨床のインシデントレポート ピットフォール

2006年08月20日(Sun)▲ページの先頭へ
サホライド
 サホライドはカリエス進行阻止や象牙質知覚過敏症の薬液として広く使用されているが その効果については恒久的なものではないこと カリエスについては特に歯牙の変色について事前に説明をしておくこと 特に小児では保護者に事前にそのことをしっかり伝えてから実施すること 
 また説明の際には通常の予防歯科で使用されているフッ化ナトリウムと混同されるおそれがあるので フッ素とは区別して理解して頂く努力も必要である 
 号泣する小児を前にするととかく説明を省いて迅速に事を進めたいものであるが まず保護者に治療への理解と協力を求め 術者との良好な協力関係を築くところからスタートすることが後々の良い結果につながる
 サイホライドを迅速に奏効させるには塗布する部位の防湿を行い 塗布してから光照射を数秒実施する その後ただちに含嗽させても効果に差がない
 サホライドの使用はカリエス進行阻止の他にも 厳密な審美的要求がされない部位(すなわち臼歯部)の生活歯の生PZ後や生KP後 レストシート形成後などの知覚過敏の予防にも有効である ただしこれも支台歯の黒変について理解を得ておくことが望ましい したがって審美的要求の高い歯冠補綴には使用しない方がよい
 薬液の取り扱いについて治療する部位に限定して塗布するようにし けして皮膚や衣服に落とすことのないよう注意する 万が一サホライドが皮膚や衣服に付着した場合には直ちに現像液シミ抜き剤を塗布して漂白し ハイポアルコールなどで拭き取るとよい


2006年05月19日(Fri)▲ページの先頭へ
子供の泣き声に耳を澄ませる
 小児において泣く子に遭遇することは日常茶飯事だが 子供の泣き声を聞き分けることも事故防止のうえで重要な指標になる 
 治療に対する恐怖 疼痛の訴え 強い拒否の意思表示などは誰もが容易に指摘するところであるが それだけの先入観でとらえていると窒息や意識喪失などの重大な兆候を見落とすことになる
@号泣(ワアッーと声を上げて泣き 激しく体動する)
 痛みで泣いているのか 恐怖で泣いているのか 治療を進めながら区別すること 治療に際しては抑制が必要であるが 抑制の器具や方法によっては患児に危害を与える恐れもあるので 抑制帯やバスタオルの使い方を日頃から習得しておくことが必要
 抑制実施に際し 号泣している声音に注意し 咽頭の舌根沈下 意識喪失 嘔吐などに十分注意すること 
A涕泣(シクシクと泣いているが 体動せず 開口している)
 恐怖心いっぱいの状態である 優しく声をかけて患児の不安を取り除き 心身の鎮静と安定に努める しゃくり上げている場合には咽頭への器具 材料などが誤嚥されないように注意する
B傾眠
 局所麻酔後に子供がウトウトと眠たがることがある 泣いていた子供が治療が始まると途端に静かになり 眠り出すことは経験することが多い このときに確認をすることなしに患児は眠っているものと思い そのまま何もせず治療を進めていくと意識障害を見落とすことがある 眠っている子供は一度起こしてみて反応を確かめるのが必要である 「寝た子を起こすな」ではなく「寝ている子は一度起こしてみよ」である
 キシロカインなどの局所麻酔剤が子供には弱いながらも中枢神経抑制に働くため それ自体が眠気を催すこともある また治療前の極度の緊張から交感神経優位になると自己防衛機能が働いて副交感神経が刺激され眠気を催す また緊張からやや解放されると安心感から眠気を催すと主張する研究もある 
 小児歯科外来ではラバーダム装着 持続吸引機などを装着することがあるため 咽頭への異物落下や気道閉塞の兆候を見落とす危険があることを知らなくてはならない 
 また痛みの原因が治療している行為そのものによるものではなく 抑制帯や人手が抑制している手足を強く刺激していないかどうかや 開口器 バイトブロックなど歯科器具類が舌や口唇への圧迫をしていないかどうかも確かめる


2006年04月14日(Fri)▲ページの先頭へ
小児の口腔外傷について
 事前に電話で問い合わせがあれば歯牙の脱落がある場合には 歯牙の保管方法について指示をしておく 
 外傷診察の優先順位は@全身 A顔面 B口腔 C咽頭 D咬合である
 問診の聴取が可能であれば 受傷時間や状況 場所などについて出来るだけ情報を集めておく 初診時の顔貌写真を撮影しておく 
 診断や治療にとっても大事な根拠となることは言うまでもないが 刑事事件や交通事故 民事賠償 保険金支払いなどの法的根拠とされる大切な項目である 処置が先に優先されることもあるが 少なくとも処置後でもよいので その場で聴取できることは記録に残して置かなくてはならない また受診者が未成年者の場合には家族 保護者への連絡がついているか確認が必要である 
 また後述する全身や顔面の症状によってはCTスキャンによる緊急検査と脳神経外科 眼科 耳鼻咽喉科 形成外科との連携が必要である
@全身
 まず意識障害 バイタルサイン 呼吸の状態について確認し ついで体幹や四肢 頭部に受傷していないか 嘔吐をしていないか 出血や打撲の有無 歩き方や表情 泣き方などから形や動きの異常を捉える 頭部の受傷は時として緊急を要する場合もある 特に新生児や2歳未満の乳幼児ではわずか数十センチの落下による頭部の強打でも頭蓋内出血を起こすこともある
A顔面
 ついで顔面に受傷を探る すぐに口腔へと目が行きがちだが 特に眼球や鼻など中顔面の受傷は口腔を診る前にチェック 開眼や動眼に問題がないかどうか 視力や視界についてはどうか 鼻出血については拍動性か持続性かなどに注意する

B口腔
 口腔内ではまず歯牙の脱臼や動揺 歯列の偏位 口唇や歯肉 舌や頬粘膜の裂傷 出血 異物や汚染物の存在 咬合の異常の有無を調べる 受傷した部位とは反対側や対合歯についても 必ずチェック

C咽頭
 意識障害がなく気道確保が問題なければ 咽頭に脱臼歯牙や汚物 異物の迷入や穿孔がないかどうかについても診ておく 必要があれば救急病院へ紹介しCTスキャンによる精査を依頼する 割り箸が口蓋咽頭より脳頭蓋底に穿孔して死亡に至ったケースがある   
D咬合
 咬合偏位がなくても骨折している場合がある 特に小児では若木骨折(グリーンスティックフラクチャー)といって不完全な骨折がみられることもある 両手で臼歯部歯列を左右に開いてみたり 舌圧子やデンタルピンセットの背中 割り箸などを噛ませて こじてみると痛みを訴える場合は骨折の可能性がある

 処置前には十分洗浄する このとき受傷後数時間内の新鮮創では洗浄に使用するのは生理食塩水でなくても 水道水による十分な洗浄で良い 水道水と生理食塩水とで処置後の細菌感染の発生について 差が見られなかったというエビデンスがある つまり洗浄水よりも術野の汚染物の除去が大事だと言うこと
 処置後は感染予防のために普通は抗生剤と消炎剤を投与するが 受傷した場所が屋外の土壌や草木などがある自然環境の下では破傷風に対しても考慮に入れなくてはならない 予防のため最寄りの医科で破傷風トキソイドの接種を依頼することも必要である


   


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